浮気/不倫からの復縁勝手に離婚届を出されるのを防止する切り札「不受理届」
『不受理届』という言葉を知っているだろうか。不受理届とは、正式には『離婚届不受理申出の制度』といわれる。それでは、何のための制度なのか。ひとことでいうと、無断での『離婚届出』を防ぐ制度だ。この記事では不受理届について詳しく語っていくが、その前にまずは、『離婚届』の説明から始めると話がわかりやすいだろう。
1.離婚届とは?
離婚届は、離婚するときに必ず提出しなければならない書類。この書類を出さない限りは、法的に夫婦(婚姻)関係が解消されることはない。仮にどれだけ長期間にわたって別居していたとしても、離婚届の提出なしには、正式に離婚は成立しないのだ。
日本における離婚は約90%が『協議離婚』で、これは夫婦が話し合いによって離婚に合意し、市区町村役場へ離婚届を提出することによって、離婚が成立するものだ。
夫婦の話し合いによって、離婚の条件などがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停手続を利用する『調停離婚』が行われるのが一般的だ。
さらに、調停離婚の手続きを進めようとしても、離婚がまとまらないときに行うのが『裁判離婚』。いずれの場合でも、市区町村役場へ離婚届を提出することで正式に離婚が成立する運びとなる。
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2.離婚届の内容
結婚するときに婚姻届が必要なように、離婚するときに不可欠なのが離婚届。前章で3つの形式の離婚を紹介したが、そのうちの協議離婚は、証人2名の記入・捺印が必要となる。証人は親や親族でなくとも、20歳以上の成人であれば、誰でもなることが可能だ。もし証人を頼める人がいない場合は、行政書士事務所などによる『証人代行サービス』を利用することもできる。
3.離婚届を勝手に出すことはできる?
離婚届を勝手に出す、と聞くとびっくりする人もいるかもしれないが、夫婦のうちの一方が、離婚届を市区町村役場へ勝手に提出しても、離婚届は受理される。離婚届の内容に不備がなく、必要書類が提出されていれば、役所の担当者は離婚届を受理し、その内容を戸籍に反映させるはずだ。
つまり、夫婦のうちの一方が、離婚届を勝手に出しても、正式に離婚が成立することになるのである。
なぜ、このようなことが可能になるのかというと、夫と妻が氏名や住所を記入する欄はあるものの、本人が記入・捺印したかどうかまではチェックされないからだ。
そもそも、離婚届は夫婦そろって提出しなくてもかまわない。それどころか、夫婦のどちらでもなく、代理人が提出することも認められている。つまり、結論からいうと、離婚届を勝手に出すことは可能であり、よって正式に離婚が成立するという流れになる。
4.実際に離婚届を勝手に出されることってあるの?
前章で、離婚届の内容に不備がなければ、夫婦のうちのどちらか、あるいは代理人が市区町村役場へ提出したとしても、離婚届は受理され、正式に離婚が認められることを述べた。
上記について、たとえば、離婚届を勝手に提出した側から見ることもでき、その逆に、離婚届を提出された側から見ることも可能だろう。さらに、もっというなら、「勝手に離婚届を出されたとしたらどうか」という視点から見ることもできるかもしれない。
このように書いてきたが、気になる人もいるかもしれない。実際、勝手に離婚届を出されることなんてあるのだろうか、と。結論からいうと現実問題、ないとはいえない。
ただし、勝手に離婚届を出された場合の対処方法もあるので、それを次章で紹介しよう。
5.勝手に離婚届を出された場合は?
離婚届の届出は、本人のうちのどちらか、または代理人からであっても認められているので、離婚届の内容に不備がなければ、正式に離婚が受理されることになる。受理された届出は、形式的な問題が特になければ、協議離婚が成立することになるのだ。
ただし、勝手に出された離婚届によって、離婚が成立したことに納得がいかない場合、離婚の届出を取り消すことができる。なぜなら、離婚というのは本来、夫婦2人が合意した場合にのみ認められるものだからだ。
であれば、そもそも、離婚届を受理する際に、夫婦それぞれに離婚に対する意志確認をすればよいのかもしれないが、実際はそのようにはなっていない。その点をカバーする意味でも、勝手に提出された離婚届を無効にできることは重要だといえるだろう。
6.離婚届を無効にするための手続
勝手に出された離婚届によって、協議離婚が成立してしまった場合、その離婚を無効にする方法を説明しよう。
夫婦の一方が離婚することに合意しないまま、離婚の届出が行われた場合は、その離婚は法律上、無効となる。ただし、そのためには、それ相応の手続が必要になってくる。
その時点では、離婚の届出が受理されたことによって、戸籍が真実とは異なる状態になっていることになる。夫婦のどちらか一方は、離婚をしたいと思っていなかったのに、離婚の手続を進められてしまったのだから、真実の状態と戸籍が一致していないということになるのだ。離婚が成立したことを示す記載を消去して、結婚中の状態(婚姻の状態)に戻す手続が必要になってくるのだ。
具体的には、戸籍を修正するため、家庭裁判所に離婚無効確認の調停を申し立てる。その後、調停において離婚が無効にあることに双方が合意すれば、審判の手続きを経て、市区町村役所で戸籍の修正をしてもらうことができるのだ。万が一、この段階で相手が合意しない場合は、離婚訴訟、つまり離婚裁判を行う必要が出てくる。
7.勝手に離婚届を出されないために
ここまでで説明したように、夫婦双方の意思確認をしないまま、勝手に離婚届を提出することでも正式に離婚が認められる可能性がある。
万が一、そうなった場合、離婚を無効にする方法もあるにはあるし、前章でそのための手続を紹介した。しかし、意に沿わない離婚が成立しないよう、あらかじめ対策を講じておきたいところだろう。
結婚しているものの現在、配偶者と別居していたり、配偶者に浮気相手がいることを疑っていたりするような場合、勝手に離婚されることを防止するために、以下の方法をとっておくのも選択肢のひとつだろう。それが、いわゆる『不受理届』(ふじゅりとどけ)、正しくは『離婚届不受理申出の制度』だ。
8.「不受理届」または「離婚届不受理申出の制度」
「不受理届」あるいは「離婚届不受理申出の制度」とは、勝手に離婚届を出されることを防止するための制度だ。これは、本籍地などの市区町村役所にあらかじめ不受理申出をしておくと、その後、もしも無断で離婚届出がされたとしても、離婚届出は受理されないというものだ。
夫婦仲が悪くなってしまっていて、夫婦で話し合いを行うのが難しい場合など、もしかしたら離婚届を勝手に出されてしまうのでないかという心配が少しでもあるなら、不受理申出をしておくことをおすすめしたい。
結婚して数年以上経過している夫婦でも、この制度を知らないという人は少なくないだろう。とはいえ、実際のところ、この制度はけっこう浸透しているともいえるかもしれない。なにしろ、市町村役場に対して不受理届を出すこの制度は、年間3万件程度利用されているといわれているからだ。
8-1.不受理届の申し出の方法
では、この不受理届、申し出の方法をここに記しておこう。提出先は、原則として本人の本籍地の市区町村役所になっている。ただし、それ以外の役所に提出することも認められているので、本籍地の役所に出すのが難しい場合は、最寄りの(住所地の)役所に問い合わせてみるのがいい。
不受理届を提出する際、役所の窓口では運転免許証などの資料を提示して本人確認が行われるので、申し出の際は持参しよう。
本人が出向くのが基本だが、本人の病気などのやむを得ない理由で役所に足を運べないときは、郵送または使者による提出も認められている。ちなみに、使者とは本人の意思を伝えるための代理人だと考えて、差し支えないだろう。
8-2.不受理届を取り下げる方法
離婚届の不受理届を出した後、夫婦が離婚することに合意した場合、正式に離婚届を提出することが必要になる。
これは、勝手に離婚届を出される可能性があるからと不受理届を出したものの、その後にになって、夫婦による話し合いなどが行われ、離婚が合意に至ったようなときだ。離婚するかどうか揺れ動いているような微妙な状態であれば、このように不受理届を取り下げる流れになることも珍しくないだろう。
そもそも、夫婦2人が合意していないとはいえ、離婚の可能性がないとは言い切れない、そんな状況だからこそ、「勝手に離婚届を出されるかもしれない」という心配も生まれるのだろう。逆にいえば、離婚が確定しているわけではないが、離婚しないことがはっきりしているわけでもないような状態のはず。だから、こういう言い方は変だが、離婚することになったとしても、離婚を取りやめることになったとしてもおかしくないような状況だから、不受理届を取り下げることになったとしても驚くことではない。
離婚の合意に至ったなど、離婚届の不受理を行う必要がなくなった場合は、不受理届を行った本人から、本籍地または住所地の「不受理申出の取下げ」の届を提出する必要がある。
8-3.不受理届の効力は無期限
ここまで説明してきた、勝手に離婚届を出されても受理されないようにするための不受理届。その効力は、申出の「取下げ」をしない限り、無期限だ。不受理届に有効期間はなく、申出をした日時分から有効。一度、不受理届を出しておけば、ずっと効力があるということになる。
ただし、2008(平成20)年5月1日以前に申し出た場合、期限が最長6カ月となっているので、すでに有効期限を過ぎている。それに該当し、配偶者が勝手に離婚届を出す可能性があるかもしれないと危惧しているなら、なるべく早く、本籍地または住所地である市区町村事務所に不受理届を提出することをおすすめしたい。
9.勝手に離婚届を提出するのは実は犯罪
配偶者の合意なく、勝手に離婚届を提出した場合、内容に不備がなければ正式に離婚届が受理されるという話をしたが、実はこれ、もう一方の配偶者が迷惑をこうむるだけではない。そもそも、勝手に離婚届を出すのは犯罪である。該当する可能性があるのは、主に下記の4つだ。
9-1.偽造した離婚届を役所へ提出した場合
離婚届を偽造して役所へ提出すると、刑法第161条の偽造私文書行使罪という犯罪に該当し、3カ月以上5年以下の懲役に罰せられる。
離婚届は本来、夫婦2人の合意のもとで役所へ提出することになっているのに、夫婦のうちの一方が勝手に離婚届を提出するということは、その離婚届は偽造したものということになるだろう。
9-2.離婚届の署名押印を偽造した場合
離婚届に記載する当事者の署名捺印を偽造するのは、私文書の偽造という犯罪に該当する。これは、刑法第159条の有印私文書偽造罪に該当し、3カ月以上5年以下の懲役に罰せられることになるだろう。
離婚届には夫婦それぞれの署名捺印が必要なのに、夫婦のうちのどちらかが、相手の分の署名をし、捺印もするということは偽造に相当する可能性がある。
9-3.嘘の内容を戸籍に記載させた場合
本当は離婚する意思がないにもかかわらず、離婚届を出して戸籍に嘘を記載させると、刑法第157条の公正証書原本不実記載罪・電磁的公正証書原本不実記録罪に該当する。 これは5年以下の懲役、または50万円以下の罰金に罰せられるだろう。
上記に「本当は離婚の意思がないにもかかわらず」とあるが、仮に夫婦のうちの一方に離婚の意思があったとしても、もう一方に離婚の意思はない状態でありながら、離婚届を提出したことで、戸籍に嘘を記載させることにつながったことになる。これも、申し開きはしにくいだろう。
9-4.嘘の内容が記載された戸籍が使われる状態にした場合
本当は離婚する意思がないのに、嘘の内容の戸籍や戸籍の電磁的記録が使用される状態に置かれると、刑法第158条の偽造公文書行使罪・不実記録電磁的公正証書原本供用罪に該当する。5年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑罰を受けることになるだろう。
これは、勝手に離婚届を提出した時点においては、該当しない可能性もあるが、該当するかもしれない。勝手に離婚届を出し、それが受理されると、戸籍の内容が変更される。その後、その変更された戸籍が使用されたら、上記に該当することになるのだ。
いずれにしても、勝手に離婚届を提出することは犯罪にあたる、ということを知っておこう。あなたがもしも勝手に離婚届を提出するかもしれない状態にあるのであれば、不受理届を出すことをおすすめしたいが、万が一、あなた自身が勝手に離婚届を出すことを考えているのだとしたら、犯罪をおかす前に踏みとどまってほしい。
まとめ
勝手に離婚届を提出した場合、内容に不備がなければ受理されること。また、そのような行為をあらかじめ阻止したいのであれば、市区町村役所に不受理届を出しておくことなどについて述べた。通常は「自分の合意がないまま、離婚届を出されるはずがない」と思うかもしれないが、夫婦仲があまりうまくいっていなかったり、配偶者の浮気を少しでも疑っていたりするようなら、防衛策として念のため、不受理届を出しておくのも手だ。またそもそも、配偶者の浮気を疑っているなら、離婚届や不受理届のことを含め、探偵事務所などに相談してみるのもいいかもしれない。
監修者プロフィール
伊倉総合法律事務所
代表弁護士 伊倉 吉宣
- 2001年11月
- 司法書士試験合格
- 2002年3月
- 法政大学法学部法律学科卒業
- 2004年4月
- 中央大学法科大学院入学
- 2006年3月
- 中央大学法科大学院卒業
- 2006年9月
- 司法試験合格
- 2007年12月
- 弁護士登録(新60期)
- 2008年1月
- AZX総合法律事務所入所
- 2010年5月
- 平河総合法律事務所
(現カイロス総合法律事務所)
入所
- 2013年2月
- 伊倉総合法律事務所開設
- 2015年12月
- 株式会社Waqoo
社外監査役に就任(現任)
- 2016年12月
- 株式会社サイバーセキュリティクラウド
社外取締役に就任(現任)
- 2020年3月
- 社外取締役を務める株式会社サイバーセキュリティクラウドが東京証券取引所マザーズ市場に新規上場
- 2020年10月
- 株式会社Bsmo
社外監査役に就任(現任)
- 2021年6月
- 社外監査役を務める株式会社Waqooが東京証券取引所マザーズ市場に新規上場
- 2022年4月
- HRクラウド株式会社、
社外監査役に就任(現任)
※2023年11月16日現在
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